従来の温泉ホテルから都市型リゾートホテルへ----。
いま熱海では、こうした大胆なムーブメントが起ころうとしています。
そんな中、老舗ホテルのひとつ「大月ホテル」では、都心で働く女性をターゲットに一大リフォームを実施。06年12月にまったく新しいコンセプトの「HOTEL MICRAS」として生まれ変わりました。
そしてそこには、スイートルームのシャワータイプが新コンセプトの大きなエレメントとして生かされていました。



07年1月20日にグランドオープンした熱海の「HOTEL MICURAS」(旧・大月ホテル)に行ってきました。ここは熱海でも有数のオーシャンビューを持つ海岸沿いの絶好の場所。かつて大月ホテルだった頃に、私も何度か訪れたことがあります。
ところが昔のイメージをある程度生かした上でのリニューアルだろうと思ったら大間違い。えっここがあの大月ホテルなの?といいたくなるほどの大変身!もとの面影は露ほどもありません。熱海といえばこれまで夫婦の一泊旅行にぴったりの伝統的な温泉街というイメージが強かったように思いますが、「HOTEL MICURAS」はまるで都市型のリゾートホテルの趣きなのです。
「ターゲットは丸の内や新橋、品川などの都心で働く女性です。あまり知られてないことですが、熱海は品川から新幹線に乗れば約46分で来れる最短のリゾートなんですね。いまキャリアウーマンの間では、六本木や赤坂などにある都心のホテルで英気を養い、翌朝そこから出勤するというスタイリッシュな人たちが増えていますが、六本木だって品川から30分ぐらいかかる。ならば仕事を終えてその足で新幹線に飛び乗れば、十分ここまで来れるわけです。そう考えて、自己満足に投資をするような若い女性を熱海に呼び込むようなホテルをつくろうと思いました」(総支配人・後藤修二さん)
最初の立ち上げからこのプロジェクトを指揮してきた後藤さんは、完全な都市型シティーホテルのスタイルにくわえ、熱海ならではのよさを引き継いだ「会話重視のカスタマーサービス」を充実させることを考えられたそうです。つまり、スタッフたちがリピーターの顔や名前をしっかり覚え、「自分は特別」という意識を持っていただくこと。スタイルやインテリアだけにとどまらない“ソフト面の充実”ということですね。


一歩、足を踏み入れて驚かされるのは、ロビーやフロントまわり、エレベーターの中、そしてエレベーターホールの計算されたインテリア。お洒落なだけでなく、移動するごとに切り替わるシークエンスの変化に「MICURAS」の演出力が光っています。たとえば、ロビーは明るいリゾート地のイメージ、エレベーターに乗るとスターダストの中にいるような光と仄暗さとの交錯、そしてエレベーターホールから客室へと続く廊下には、まるでワインセラーの洞窟を歩いていくような感覚があります。
そして、その効果は客室を見せていただくことで納得しました。そこは目が覚めるようなオーシャンビューの大空間。まさに「洞窟を抜けると海だった」というカタルシスを得られるよう演出がなされているということですね。
「シティーホテルでは、行き着く先は大都会の夜景ということでしょうが、ここは熱海ですから目の前が海。それを生かさない手はありません。その意味で、各部屋のルームナンバーやサインボードも目立ちすぎないようなるべく少なくして、機能優先ではなくムード優先の“隠れ家”的な演出を施しました」(後藤さん)
聞けば「MICURAS」というのは、スペイン語の「Mi(わたし)」「Cura(癒し)」「s(複数形=集合)からつくった造語とのこと。ここにはたしかに究極の癒し空間が広がっていました。
そして、この客室のうち39室に導入されたというスイートルームを見せていただくと、それはまさに室内を「Cura(癒し)」でいっぱいにする重要なエレメントとして大きな役割を果たしていました。





「MICURAS」に導入されたスイートルームはシャワータイプ。使われているタイルは客室の壁と統一された印象。ガラス張りのスイートルーム内と室内がまるで一続きであるように見えます。この視覚効果でますます一体感が強まり、室内にさらなる広がりと開放感を与えています。
私のお気に入りは、後藤さんがもっとも高いリピーター率を期待しているという、寝ながらにしてオーシャンビューが得られるスーペリアタイプの部屋。ベッドが窓側に面して置かれているため、頭を起こせば夜の海や熱海のちらちらする街の灯、そして朝には初島を見はらす太平洋が望めるというわけです。
そしてこの部屋のスイートルームは、シャワーを浴びながらその光景を一部垣間見ることもできる。女性客を意識して、浴室とベッドの間にはスライド式カーテン、ガラス張りの側面には木のブラインドが取り付けてありますが、これを開放するしないはお客様の自由。せっかくオープンでリラックスできる「自分だけのバスルーム」なのですから、ぜひとも自意識を脱ぎ捨てて気持ちのよいバスタイムを楽しんでいただきたいものです。


「スイートルームを導入してからも気にかかっていたのは、やはり水圧の問題。シャワータイプには大きなレインシャワーと手で持つタイプのシャワーが付いていますが、せっかく他にはないレインシャワーがあるのだから、そちらを使って思い切りあたたかいお湯を浴びたいですよね。しかしその出具合が不十分だと、かえって不満が残ってしまう。そこで私たちスタッフがオープン前に実際に体験入浴をして確かめてみました。結果は良好。ぜひお客様にもじっくりとこの心地よさを味わっていただきたいですね。(後藤さん)
「MICURAS」ではすでにオープン前に、体験宿泊を実施されたそうですが、そのときの評価も上々だったそうです。個室のバスといえば、従来のホテルのほとんどが申し訳程度のユニットバスというのが定番。それをしっかり「Cura(癒し)」の一要素として生かしたのはさすがというべきでしょう。しかも「MICURAS」には、オーシャンビュー付きのアロマトリートメントスパや大展望露天風呂もあるわけですから、都心のホテルでは決して味わえない熱海ならではの楽しみもあるわけです。
都心のホテルでも、タクシーで30分かけて行けば、費用も時間もほとんど新幹線と変わらない。同じ費用で1泊2食付きのお洒落なリゾートホテルに泊まって、海や温泉のメリットが得られるとなれば、こんなお得感はありませんよね。都心から都心への移動では味わえない、完全なオンタイムとオフタイムの切り替え。それはここ「MICURAS」ではパーフェクトにできるというのも大きなメリットだと思いました。 (MICURASはこちら)
- 坂本徹也
- 住宅建築ジャーナリスト、All About「建築家」ガイドとして、魅力ある住宅建築のレポートを執筆中。著書に『建築家と家をつくる愉しみ』『住宅プロデューサーを上手に使えば こんないい家がつくれる』などがある。
